「開けなさい。これはCFOとしての業務命令です」
私の冷徹な声が、武器商社『ロイヤル・アームズ』の地下倉庫に響く。
だが、脂汗を垂らした商人は、引きつった笑みを浮かべて首を振った。
「は、はんっ! 業務命令だと? 笑わせるな!」
商人は、背後に控える聖騎士たちの後ろへ逃げ込みながら叫ぶ。
「ここは聖騎士団長様が直々に施した『聖域結界(サンクチュアリ・ロック)』で守られているのだ! 魔族ごときの魔法で解除できるものか! 帰れ、不法侵入者どもめ!」
聖騎士たちが抜剣し、倉庫の扉の前に立ちはだかる。
扉には、黄金に輝く複雑な魔法陣が何重にも展開されていた。
だが、私は動じることなく、懐から一巻の羊皮紙を取り出し、商人の目の前に突きつけた。
「不法侵入? 勉強不足ですね。……これをご覧なさい」
私が指を鳴らすと、空中に巨大な契約書の条文がホログラムとして展開される。
[Legal Document] 条約照会
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参照条文:聖魔通商条約 第4項
【サプライヤー監査権(Audit Rights)】
▼ 権限執行レベル
[Authority] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ (Level: Absolute)
※ 拒否時のペナルティ:
- 契約の即時破棄(Contract Nullification)
- 戦争状態への移行(War Mode)
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「ご覧の通りです。『納品物の品質に疑義がある場合、発注者は現地への即時立入検査権を有し、受注者はこれを拒否できない』。……拒否すれば条約違反で『戦争再開』ですが、その責任、貴社で負えますか?」
「ひっ……! せ、戦争だと……!?」
商人の顔が蒼白になる。一介の商人に背負える責任ではない。
私は畳み掛けるように、隣のアリスに視線を送った。
「ふぁ……。パスコード解析、めんどくさぁい……。……ねえクリフ、もう『物理』でいい?」
「ええ、構いません。……ガント、条約に基づき強制執行(ブレイク)です」
「へいよ。待ってました」
ガントが一歩前に出る。
背負っていた巨大な魔導盾を構えると、彼の全身から琥珀色の魔力が噴き出した。
「おいおい、何をする気だ? その盾で殴るつもりか? 無駄だ無駄だ! この結界は物理衝撃を100%反射する――」
「スキル発動――【タイタン・クラッシュ《巨神の粉砕撃》】」
ドォォォォォン!!
商人の言葉は、爆音によって遮られた。
ガントの放った一撃は、単なる打撃ではない。対象の「防御力」という概念そのものを粉砕する、Sランク盾役(タンク)必殺の『防御貫通攻撃』だ。
[Battle Log] 防御結界解析
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Target: 聖域結界(Sanctuary Lock)
Defense: ▓▓
(Physical Nullify)
VS
Attacker: 重戦士ガント
Skill: タイタン・クラッシュ(貫通)
Power : ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ ▓▓▓▓▓
(Overkill)
Result: 【結界粉砕(DESTROYED)】
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パリン、パリン、パリンッ!
黄金の結界が、薄氷のように砕け散る。
続いて、分厚い鉄の扉が飴細工のようにひしゃげ、蝶番(ちょうつがい)ごと吹き飛んだ。
「なっ……!? 聖域結界が……一撃で!?」
聖騎士たちが腰を抜かす中、私は土煙を払って倉庫の中へと足を踏み入れた。
「……壮観ですね」
そこには、山積みになった木箱があった。
中身はすべて、新品の『聖剣エクス・レプリカ』
その数、目測でおよそ一万本。
「これが貴方がたが『品薄で入手困難』と言って価格を吊り上げていた商品の正体ですか」
私は一本の剣を手に取り、鑑定スキルを発動する。
不都合な真実が、残酷なほど明確な数値となって浮かび上がった。
[Item Appraisal] 資産価値鑑定
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Item: 聖剣エクス・レプリカ
▼ スペック監査
[Brand Value] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ (High)
[Real Spec ] ▓ (Scrap Iron)
判定: 【不当表示(Scam)】
適正価格: 50,000 Mana
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「ひぃっ! や、やめろ! それに触るな! それは我々の資産だ!」
商人が半狂乱で叫ぶ。
私は冷ややかな目で彼を見下ろした。
「『指定装備』という独占ルールを盾に、冒険者に選択肢を与えず、不当な高値で売りつける……。健全な商売ではありませんね」
「資産? いいえ、これは不正契約による【損害賠償担保】として差し押さえます。……アリス、準備は?」
「完了~。王都の全冒険者の石板に、通知(プッシュ)送ったよ」
アリスがニヤリと笑い、エンターキーを叩く。
その瞬間、王都中の冒険者たちの端末が一斉に震えた。
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【緊急速報:魔王軍・大放出セール!】
倒産した悪徳業者より押収した「聖剣(定価100万)」を、
本日限り【一本5万マナ】で販売します!
場所:ロイヤル・アームズ本店前
※早い者勝ち! 転売OK!
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「ご、五万マナだとぉぉぉ!?」
商人が目を剥いて絶叫する。
五万マナ。それは彼らの仕入れ原価そのものだ。利益はゼロ。いや、保管コストを考えれば大赤字である。
「ば、バカな! そんな安値で売られたら、聖剣のブランド価値がなくなる! 市場が崩壊するぞ!」
「ええ、崩壊させます。それが狙いですから」
私は淡々と告げた。
外からは、すでに「うぉぉぉ! 聖剣が五万!?」「マジかよ急げ!」という冒険者たちの地響きのような足音が聞こえてくる。
「需要と供給のバランスを無視して暴利を貪った報いです。……さあ、在庫一掃(クリアランス)の時間ですよ」
ガントが倉庫の中の剣を、次々と外へ放り投げていく。
群がる冒険者たち。
狂喜乱舞する声。
そして、私の目の前で、商人の持つ「在庫管理帳簿」の数字が、凄まじい勢いで目減りしていく。
[Market News] 聖剣市場価格推移
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銘柄: 聖剣(新品)
▼ 取引価格(Price Per Unit)
[Before] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ (1,000,000)
↓
[After ] ▓ (50,000 / ▼95%)
Status: 【ストップ安(Limit Low)】
資産評価: 100億 → 5億 (大暴落)
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「あ、あぁ……俺の金が……聖剣の相場が……紙切れに……」
商人がその場に崩れ落ち、泡を吹いて気絶した。
護衛の聖騎士たちも、自分たちの持つ剣が「五万マナの安物」に成り下がった事実に絶望し、剣を取り落としている。
私は手元の帳簿に【監査完了】のスタンプを押し、アリスに向かって頷いた。
「これで、市場の適正化は完了です。……行きましょうか。次は、この『偽りの聖剣』にお墨付きを与えていた黒幕(メーカー)への訪問です」
(続く)
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