翌日の昼下がり。
庭には、雨上がりの湿った黒土の匂いと、若草の青い香りが立ち込めていた。
ミミは腕まくりをして、地面にしゃがみ込んでいた。
爪の間に冷たい砂が入る、ザラリとした感触。
「ふぅ……。精霊さんたち、いつもお掃除してくれてるから。今日くらいは私が頑張らないとね!」
ミミの後ろには、頼もしい相棒が控えている。
ウィィィン……ガシャン。
昨日進化した――「魔導段ボール(自律駆動ロボモード)」――だ。
ミミが動くたびに、まるで忠犬のように背後をついてくる。
「ありがとう、ロボさん! えーっと、次はこれかな?」
ミミの視線の先に、一本の奇妙な「雑草」があった。
紫色の葉脈がドクドクと脈打ち、地面にへばりつくように根を張っている。
(うーん、なんだか強そうな雑草……。根っこが深そう)
ミミは茎を両手で掴んだ。
植物が「キチチチ……」と嫌な音を立てて抵抗した気がしたが、ミミは気にせず腰を入れた。
「んーーっ、よい、しょぉぉぉぉッ!!」
ブチブチブチブチィィィッ!!!
地面が揺れた。
ミミの手には、自身の身長よりも長い、のたうち回る根っこが握られていた。
「わあ、すっごく長い! 大物だぁ!」
ミミが無邪気に喜んでいる、その数キロ先。
ズガァァァァァァン!!
黒い煙がモクモクと上がる。
「えっ? 今の音……雷かな?」
ミミはキョトンとして空を見上げたが、雲ひとつない快晴だ。
ウィィィン。
段ボールロボが「気にせず作業に戻りましょう」と言わんばかりに、ゴミ袋を差し出した。
「そうだね! お掃除の続き、頑張ろう!」
彼女は知らない。
今引き抜いたのが、魔王軍の前線基地へ魔力を送る「大動脈」であり。
その遮断によるエネルギー逆流で、基地の一つが壊滅したことを。
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【裏トーク:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 4)】
@公式カメラマン
抜いた。
@氷結の獅子
抜いたな。
@公式カメラマン
録音完了。
今の「よいしょぉぉ!」の語尾の伸び、120点。
波形が美しい。
@課金は酸素
物理的な種明かしをしましょう。
- シャドウが0.01秒前に地中の根元を切断済み。
- ロボがアームから「超音波振動」を発し、土壌を一時的に液状化させた。
開発者(私)の勝利ですね。
@新入り聖騎士
ちょ。アレ、爆発とかどうでもいいのよ!
ミミちゃんが今捨てた、その「紫の草」!
@新入り聖騎士
それ、魔界深層の『魔導繊維・原種』!!
あれでミミちゃんの「最高級ふわもこパジャマ」を特注で作る予定だったのよ!?
捨てないで!! ロボのゴミ袋に入れないでぇぇぇぇ!!
@課金は酸素
あ。
ロボの自動焼却機能、作動しました。
@新入り聖騎士
ぎゃああああああああ!!
私の夢(パジャマ)がぁぁぁぁ!!
@公式カメラマン
……おや。ミミちゃん、仕上げにジョウロを取り出しました。
@課金は酸素
タンクの中身、最高純度の――「聖水(エリクサー)」――を入れておきました。
水道水だとカルキで手が荒れるので。
[System Alert] —————————–
Alert: High-Concentration Holy Mana Detected.
Terrain Status: PURIFIED (Garden of Eden Mode)
Value: Unmeasurable
@新入り聖騎士
……は?
一瞬で焼け野原が、光り輝くお花畑になったんだけど。
@氷結の獅子
当然だ。
ミミちゃんが歩いた後は、すべてが聖地(エデン)となる。
@課金は酸素
……おや。団長、クリスティーナ様。
来ますよ。
[System Alert] —————————–
WARNING: Massive Hostile Force Detected.
Enemy Count: 10,000+ (Demon Lord Army Main Force)
Status: ENRAGED
@公式カメラマン
……どうやら、パイプを引き抜かれて本気でキレたようですね。
地平線が黒く埋め尽くされています。
@氷結の獅子
ふっ。
ちょうどいい。最近、チャットとストーキングばかりで体が鈍っていたところだ。
おい、野郎ども。
――行くぞ。蹂躙の時間だ。
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