第13話 聖騎士団長の領収書、風俗店のロゴが入ってますが?

「……待て待て待て。魔王軍のCFOだか何だか知らんが、ここは神聖なる騎士団の本部だぞ!」

 王都の中心にそびえ立つ、白亜の巨塔。
 その最上階にある執務室で、聖騎士団長ゼガートは、脂ぎった顔を真っ赤にして机を叩いた。

「貴様のような下賤な魔族が、土足で踏み込んでいい場所ではない! 衛兵! 衛兵は何をしている!」

「無駄ですよ。衛兵たちはガントが『物理的に説得(おひるね)』させました」

 私は、執務室の豪奢な革張りのソファに勝手に腰を下ろし、アリスから渡された石板(スレート)を操作する。

「さて、単刀直入に伺います。……先ほどの武器商社との癒着による『キックバック(裏金)』。どこに隠しました?」

「き、キックバックだと? 濡れ衣だ! 私は清廉潔白をモットーとする聖騎士だぞ! 神に誓って不正などしていない!」

 ゼガートは胸の聖印を握りしめ、芝居がかった声で叫ぶ。
 その全身からは、嘘つき特有の「焦りの魔力」が滲み出ていた。

「神に誓う、ですか。……では、この領収書についても神に説明できますか?」

 私は石板をスワイプし、空中に巨大なホログラム映像を投影した。
 それは、彼が「聖騎士団・強化合宿費」として計上していた経費の明細データだ。

「なっ……!?」

「アリス、解析(デコード)開始」

「了解~。……えいっ」

 アリスがエンターキーを叩いた瞬間、空中に無機質なシステム音が鳴り響き、ゼガートの目の前に《警告ウィンドウ》が出現した。

[聖暦1026/05/15 14:30] 財務監査ログAUDIT_CRITICAL_LOG
──────────────────────
【警告】経費申請の重大な矛盾を検知
対象伝票:第849号『夜間聖剣技強化合宿費』
申請金額:500,000マナ
エラーコード: 403 Forbidden Activity
内容:申請された店舗情報の偽装を確認。正しい店舗名へ強制置換(リライト)します。

[DECODING_DATA…]
□□□□□□□□□□ 0%
……開始

■■■□□□□□□□ 30% : [解析]
隠蔽魔法レイヤーの除去中……

■■■■■■□□□□ 60% : [特定]
ロゴ解析……『Succubus Dreams』

■■■■■■■■■■ 100%: [完了]
真実の開示に成功しました

修正後:高級キャバクラ『夢見るサキュバス』貸切代金
※備考:指名嬢「ルルちゃん」へのシャンパンタワー代含む
──────────────────────

「あ、あ、あぁ……!!」

 ゼガートの顔から血の気が引いていく。

 空中に浮かび上がったのは、ピンク色のネオンで彩られた、王都でも有名な高級風俗店のロゴマークだった。

「ほほう。『夜間聖剣技強化』とは、随分と熱心なトレーニングですね」

 私は冷ややかな視線を送る。

「ですが、残念ながら聖騎士団の会計基準において、キャバクラでの遊興費は『経費』として認められません。……これはただの《横領》です」

「ち、違う! これは情報収集だ! 魔族の生態を調査するための……!」

「往生際が悪いですね。……では、追加のログもすべて公開しましょうか」

 私が指を鳴らすと、さらなるウィンドウが滝のように流れ落ち、執務室の空間を埋め尽くした。

[聖暦1026/06/01] 高級クラブ『天使の休息』:30万マナ(否認)
[聖暦1026/06/05] バニーガール専門店『ウサギの穴』:20万マナ(否認)
[聖暦1026/06/10] 私的旅行『南国リゾート・愛人同伴』:150万マナ(否認)
[聖暦1026/06/12] 高級クラブ『天使の休息』:50万マナ(否認)
[聖暦1026/06/15] 違法カジノ『闇の帝王』:300万マナ(否認)
[聖暦1026/06/20] 高級クラブ『天使の休息』:40万マナ(否認)
[聖暦1026/06/22] 贈答品『ダイヤの指輪(宛名不明)』:200万マナ(否認)
[聖暦1026/06/25] バニーガール専門店『ウサギの穴』:25万マナ(否認)
[聖暦1026/06/30] 高級クラブ『天使の休息』:100万マナ(否認)
[聖暦1026/07/01] 高級クラブ『天使の休息』……
[聖暦1026/07/02] 高級クラブ……
…………
(以下、計 528件を表示中)

「ひぃぃっ! やめろ! それ以上見せるな! 私の社会的地位がぁぁぁ!」

 ゼガートが頭を抱えて蹲る。視界を埋め尽くす「否認」の文字は、もはや暴力的なまでの圧力となって彼を押し潰していた。

 私は彼を見下ろし、最後の審判を下した。

「合計、三億五千万マナの使途不明金を確認。……これより、貴方の私財を全額凍結し、被害額の回収プロセスへ移行します」

[聖暦1026/09/30 19:15] 強制執行ログSYSTEM_EXECUTION
──────────────────────
【執行】資産凍結プロトコル
対象口座:ゼガート団長(裏口座含む全18口座)
処理:All Freeze(全凍結)

□□□□□□□□□□ 0% : [開始]
銀行ネットワークへ接続中…

■■■■■□□□□□ 50% : [処理]
隠し口座のセキュリティを無効化

■■■■■■■■■■ 100%: [完了]
残高を強制徴収しました

現在の所持金: 0 マナ
──────────────────────

「う、嘘だ……俺の金が……長年かけて貯め込んだ裏金が……!」

 石板の通知音が、彼の破滅を告げる鐘のように響いた。
 私は空っぽになった彼の懐へ、一枚の紙きれを放り投げた。

「領収書の整理なら、牢屋の中でゆっくりやってください。……ああ、それと」

 私は出口へ向かいながら、背越しに告げる。

「サキュバスのルルちゃんによろしく。……彼女、実は魔王軍の情報部員(スパイ)ですので」

「なっ……!?」

 絶望に染まったゼガートの叫び声を背に、私は執務室を後にした。
 これで、魔王軍の赤字を埋めるだけの資金は回収できたはずだ。

「さあ、帰りますよアリス、ガント。……今日は定時で上がれそうです」

(続く)

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