「……クリフよ。これは何だ?」
魔王城・第一階層。
視察に訪れた魔王ゼノンが、目の前の光景に絶句していた。
かつてそこは、侵入者を串刺しにする『死の落とし穴』があった場所だ。
しかし今、そこには極彩色のライトが点滅し、軽快なサンバのリズムが流れている。
「何って……『ウォータースライダー』ですが?」
私は石版を見ながら平然と答えた。
「従来のような『底に槍を設置した落とし穴』は、清掃コストがかさむ上に、装備品(戦利品)が破損するリスクがありました。そこで――」
その時。
上階から「うわぁぁぁぁ!」という悲鳴と共に、鎧姿の冒険者たちが落ちてきた。
ヒュゥゥゥ……バシャァァン!
彼らが落ちた先は、槍の山ではなく、なめらかな流水が流れるチューブの中だった。
「ひ、ひぃぃぃ……死ぬぅぅ……あれ? 死なない?」
「うおおおお! なんだこれ速ぇぇぇ!」
冒険者たちが猛スピードでチューブを滑り降り、360度ループを回転し、最後に地下二階の巨大なプールへとダイブした。
──カシャッ! カシャッ!
着水の瞬間、魔法フラッシュが焚かれる。
「ようこそ、魔王城ダンジョンへ! 今の『絶叫フェイス』、記念写真として一枚5000マナで販売中ダヨ!」
プールサイドでは、アロハシャツを着たスケルトンたちが、現像したての写真を売りつけていた。
「は、はい! 買います! 記念に買います!」
興奮冷めやらぬ冒険者たちが、次々と財布の紐を緩めていく。
「……ご覧の通りです、社長」
私はゼノンに向き直り、眼鏡を光らせた。
「殺してしまえば、奪えるのは『所持金』だけ。しかし、こうして生かして楽しませれば、彼らは『所持金』に加え『借金』をしてでもリピートしてくれます。これがLTV(顧客生涯価値)の最大化です」
「む、むぅ……。確かに儲かってはおるが……魔王軍の威厳が……」
ゼノンが複雑な顔をするが、改革はこれだけではない。
◇
続いて訪れたのは、中層エリア。
かつて巨大な鉄球が振り子のように襲いかかる『処刑通路』だった場所だ。
「ここも改良しました」
ゴォォォォ……ッ!
巨大な鉄球が迫る。冒険者たちが「あぶねぇ!」と叫んで伏せる。
しかし、鉄球は彼らの鼻先数センチでピタリと止まり、パカッと割れた。
『――コングラチュレーション! 大当たりダヨ!』
中から出てきたのは、大量の紙吹雪とファンファーレ。
そして、『ボーナス・ステージ突入』の文字。
「……トラップを『イベント演出』に変えました。この鉄球に触れると、別室の『カジノ・ルーム』に強制転送されます」
「カジノ……?」
「はい。スライムレースやポーカーで、彼らの装備を賭けさせます。……もちろん、勝率は当社側でコントロール済みですが」
私は手元の端末で、現在の収益ログを確認した。
[Dungeon Report] ダンジョン収益監査
────────────────────
▼ 旧モデル(略奪型)
客単価: 500 マナ(所持金のみ)
生存率: 5%
リピート率: 0%(死ぬので)
↓
▼ 新モデル(テーマパーク型)
客単価: 50,000 マナ(グッズ・飲食・写真代)
生存率: 100%
リピート率: 80%(「次はクリアするぞ!」と再来店)
────────────────────
「素晴らしい……。血を見ることなく、彼らの資産だけを骨の髄まで吸い上げている」
◇
そして、最深部。
かつて魔王ゼノンが座っていた玉座の間は、今や巨大な『課金アイテムショップ』に変貌していた。
「ようこそ冒険者様! ボスに勝てなくてお困りですか?」
カウンターに立つのは、バニーガール姿のサキュバス(元・情報部員ルルちゃん)だ。
「そんな貴方に『救済措置(Pay to Win)』!
この『魔王特製・弱体化ポーション』をボスに投げつければ、5分間だけ攻撃力が半減します! 今ならなんと10万マナ!……さらに10連ガチャチケット(ノーマル限定)付きで実質タダ!」
「か、買います! これがあれば勝てる!」
ボロボロになった冒険者たちが、涙を流してアイテムを購入していく。
その様子をバックヤードで見ながら、ゼノンが深い溜息をついた。
「……クリフよ。余は、手加減してやっている上に、金(カネ)の力で弱体化させられるのか?」
「はい。それが『接待(エンタメ)』です」
私は社長の肩を叩いた。
「ご安心を。彼らが倒すのは、貴方の精巧な影武者(泥人形)です。……そしてドロップアイテムは」
私が指差した先には、巨大な『ガチャ筐体』が設置されていた。
【ボス討伐報酬ガチャ】
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1回:1万マナ
[N] 薬草(確率 95.0%)
[R] 銅の剣(確率 4.9%)
[SSR] 伝説の聖剣(確率 0.099%)
[UR] 1/20 天使のアリスたん(確率 0.001%)
※シークレット! 社長秘蔵のハンドメイド品!
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「ぶふっ!? ク、クリフ! あれは余が夜なべして作った世界に一つの試作品ではないか! なぜ入っている!?」
ゼノンが目を剥いて食いつく。
私は涼しい顔で答えた。
「『聖剣』だけでは釣れませんからね。……ああいう『コアなファン向け』の激レアアイテムを混ぜることで、コレクター気質の冒険者を沼に引きずり込む(課金させる)のです」
「き、貴様ぁぁ! あれは余の宝物だぞ! 誰にも渡さん!」
「ご安心ください。確率は0.001%。……数億マナ使っても出るかどうかの確率設定(渋い仕様)にしてあります」
「……な、ならばよし!」
こうして魔王城は、恐怖のダンジョンから、魔界一の集金システムへと生まれ変わった。
冒険者たちは口々にこう言って帰っていく。
「あー楽しかった(財布は空だけど)!」「次は絶対アリスたんフィギュア出すぞ!」
――平和的かつ、悪魔的な搾取。
これこそが、株式会社デーモン・HDの真骨頂である。
(続く)
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