第22話 有毒資産の正体。その「AAAランク」、誰が保証したんですか? ~えっ、この債権パックの中身、全部「行方不明の新人」の借金じゃないですか~

「……は、払います! 払わせていただきますぅぅ!」

私の監査魔法によって、商品棚の「資産価値」を強制的にゼロにされたゴブリン商人は、涙目で地面に額を擦り付けていた。

詐欺罪の賠償金。その額は、彼が稼いだ不正利益の全額だ。

「しかし、解せませんね」

私は回収した「スライム債権」の束をパラパラと捲りながら尋ねた。

「中身は回収不能な借金(ゴミ)ばかり。……なのに、なぜ格付け機関はこれを『AAA(極めて安全)』と評価したのですか? 単なる賄賂ですか?」

「ち、違いますぅ! 正当な評価なんですぅ!」

ゴブリンが必死に弁解する。

「その債権には……『ヘッジ(保険)』がかかってるんでさぁ! だから、債務者が金を返せなくても、投資家は損をしない仕組みになってるんです!」

「保険?」

「へ、へい。……これを見てくだせぇ」

ゴブリンが差し出したのは、契約書の裏面に書かれた、極小文字の『特約条項』だった。

私はそれを【鑑定】し、構造を可視化した。

>>> ANALYSIS_START

[TARGET]:勇者応援ファンド(構成:新人冒険者の借金)

[ OPEN ]:収益確定条件・分岐
├[生存時]:利息収入
| (リターン:小)
└[死亡時]:団体信用生命保険
(リターン:特大)

>>> RESULT:DEATH BOND(死亡債)

「……なんですって?」

私は絶句した。隣で覗き込んでいたアリスも、青ざめた顔で口元を押さえる。

「クリフ、これ……。冒険者が借金を返せなくても、冒険者が『死ねば』、保険金が下りて投資家が儲かるようになってる……」

「ええ。それどころか、『利息(生存)』より『保険金(死亡)』の方がリターンが大きい。……つまり」

私はゴブリンを氷の視線で見下ろした。

「この商品は、投資家に『冒険者の死』を期待させるように設計されている。……そうですね?」

「ひぃっ! そ、それは……『リスク管理』の一環で……!」

ゴブリンが震え上がる。

構造は明白だ。
闇市場の胴元たちは、借金まみれの新人(アルヴィンのような手合い)を、装備も不十分なまま高難易度ダンジョンへ送り込む。

彼らがクリアすればラッキー。
もし死んでも――いや、『死んだ方が』巨額の保険金が入ってきて「債権」は満額回答される。

「……吐き気がしますね。これは投資ではありません。『死の賭け(デッド・プール)』です」

私の怒りのボルテージが、臨界点を超えようとした時だった。

「――おいおい。随分と派手に暴れてくれているじゃねぇか」

ドカドカと足音を立てて、武装した集団が現れた。

全身に刺青を入れたオークや、人相の悪い傭兵たち。

この闇市場の治安を守る……いや、支配者に雇われた『用心棒(レギュレーター)』たちだ。

「ここでの商売には、俺たちのボスへの『上納金(みかじめ)』が必要なんだよ。……それを払わずに勝手な監査(マネ)をされちゃあ、市場の秩序が乱れる」

リーダー格の隻眼の男が、巨大な斧を担いで威嚇する。

「お兄ちゃんたち、どこぞの役人か知らねぇが……。生きて帰れると思うなよ? お前らの命も、ここで『証券化』して売りさばいてやる」

傭兵たちが下卑た笑いを浮かべ、包囲網を縮める。

アリスが戦闘態勢をとろうとするが、私はそれを手で制した。

「……秩序、ですか」

私は眼鏡を外し、丁寧に胸ポケットにしまった。

「人の命をチップにした賭博場を『秩序』と呼ぶのなら……そんなものは、私が再定義(オーバーライド)します」

「あぁ? 何言ってやがる。死ね!」

隻眼の男が斧を振り上げる。

だが、私は動かない。

代わりに、懐から一枚の『名刺』を取り出し、彼らの足元へ投げ捨てた。

「警告します。……私に指一本でも触れれば、貴方たちの雇用主の『全資産』が消滅しますよ?」

「はったりを……!」

「いいえ。……貴方たちは知らないようですが、この闇市場のシステム(OS)を構築したのは誰だと思いますか?」

私が指を鳴らすと、市場の空中に浮かぶ価格ボードの数字が、一斉に『乱れ(グリッチ)』始めた。

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……[SYSTEM_WARNING]……
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「な、なんだ!? ボードがバグってやがる!?」

「私の名はクリフ。……この腐りきった市場に、『本当の価格(じごく)』を教えに来た監査人(オーディター)です」

(続く)

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