第25話 教団の監査官

夏合宿──もとい、物理学強化週間が最終日を迎えた夕暮れ時。
私たちは第4廃校舎の前で、その成果を確認していた。

「よし、アリス。もう一度だ。ターゲットは校舎の屋上の避雷針。距離300メートル」

「はいっ!……照準、固定。ウインド・スナイプ!」

ヒュンッ!

アリスが改造杖(八木・アンテナ仕様)を振るうと、圧縮された空気弾が一直線に空を裂き、遥か彼方の避雷針に命中した。

カーン!と乾いた金属音が遅れて届く。

「命中精度、威力ともに良好だ。これなら深層の飛行魔獣、フライング・キラーも落とせる」

「やったぁ!私、もうドジっ子じゃないです!」

「いや、ドジは相変わらずだ。昨日も実験器具を割っただろう」

「うぅ……」

和やかな空気が流れる。
リックも、セラミック・コーティングされた剣を得意げに振っている。
ボブは木陰で、モンテカルロ法のアルゴリズムを魔導書に書き写している。

準備は整った。
明日には、ダンジョンへ向けて出発できる。

そう思っていた、その時だった。

「──見事なものですね」

不意に、背後から冷ややかな声が掛かった。
校門の方角。
夕日を背にして、数人の影が立っていた。

「……誰だ?」

私が不審げに尋ねると、影たちはゆっくりと歩み寄ってきた。
先頭に立つのは、灰色の法衣を纏った、長身痩躯の男。
胸元には、複雑な幾何学模様──エーテル教団の聖印が刻まれた銀のペンダントが輝いている。

男の後ろには、武装した「聖騎士」が二人、無言で控えていた。

「初めまして、レイ・カルツァ君。そしてチーム・カルツァの皆さん」

男は丁寧な口調だが、その目は全く笑っていなかった。
爬虫類を思わせる、感情の読めない瞳。

「私はエーテル教団・教理監査局のジオットと申します。以後、お見知り置きを」

「教団の監査官が、こんな廃校舎になんの用だ?」

私は警戒レベルを引き上げた。
リックが顔を引きつらせて私の背後に隠れる。ボブが魔導書を閉じ、眼鏡の位置を直す。

「用件は単刀直入に。……ここ数日、この場所から『異質な魔力波形』が観測されています」

ジオットは、アリスの杖と、リックの剣へと視線を流した。

「自然界には存在しない、いびつに収束されたマナの波。そして、物質の構造を無理やり書き換えたような痕跡。……神が定めた『自然の摂理』を、土足で踏み荒らすような気配を感じましてね」

彼は一歩、前に出た。

「君たちの研究は、少々『度』を越えているようだ。教団としては、これを見過ごすわけにはいきません。……異端の疑いあり、として」

「異端、だと?」

私は鼻で笑った。

「ただの物理実験だよ。効率を追求したらこうなっただけだ」

「効率?神の奇跡に、人間の浅知恵で効率を求めると?」

ジオットの目が細められた。

「レイ・カルツァ君。君には以前から不審な噂がある。『魔法を数式で汚す者』『神の恩恵を否定する者』……今日は、その真意を確かめに参りました」

聖騎士たちが、ガチャリと剣の柄に手をかける。
空気が凍りついた。

「これより、『異端審問』を開始します。君の研究が神の御心に沿うものか、それとも焼却すべき冒涜か。……私がジャッジさせていただきましょう」

最悪のタイミングだ。
だが、避けては通れない道でもある。私は白衣のポケットに手を突っ込み、不敵に笑い返した。

「いいだろう。プレゼンの始まりだ。ただし、僕の理論は難解だぞ?神頼みの頭で理解できるかな」

 

(続く)

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