「汚物は消毒だァァッ!」
ライバルクラン『ブレイブ・ナイツ』が放つ紅蓮の炎が、新宿の路地裏を焼き尽くしていく。
彼らは「モンスター(ゴミ)を灰にする」という、最も原始的かつ環境に悪い方法でスコアを稼いでいた。
「けっ、野蛮人が。あんなのは掃除じゃねぇ。ただの『破壊』だ」
灰坂ソウジは、黒煙を上げるライバルたちに冷ややかな視線を送ると、手にした武器をカチリと鳴らした。
両手に一本ずつ握られた、長さ60センチのステンレス製棒状器具。
ホームセンターで一本498円。
【業務用ロング・トング(先細タイプ)】だ。
「行くぞ。俺たちは『量』ではなく『質』で勝負だ。植え込みの奥、側溝の隙間……奴らが見落とした『ミクロの汚れ』を根こそぎ拾う」
「了解です! ミミちゃんのために!」
背後で、剣崎とセシリアが血走った目でゴミ袋を広げた。
ソウジは深く息を吐き、膝を軽く曲げて構えた。
「掃除の極意その1。──腰を入れるな、膝を使え」
シュバッ!
ソウジの腕が鞭のようにしなった。
カチッ!
左手のトングが、植え込みの奥に隠れていた「吸い殻」を正確に摘み取る。
カチッ!
右手のトングが、アスファルトの隙間に挟まった「ガムの包み紙」を引き抜く。
ソウジの動きが加速する。
カカカカカカカッ!
まるでカマキリの捕食だ。
二本のトングが残像と化し、路上の微細なゴミを次々と捕獲しては、コアちゃんの持つ袋へとシュートしていく。
「す、すげぇ……! なんだあのオッサン!?」
「トング捌きが神速すぎる! 地面のシミかと思ったら全部『ゴミ』だったのか!?」
周囲の観客やボランティアたちがどよめく。
魔法のような派手さはない。だが、彼が通った後の道路は、まるで新品のアスファルトのように一点の曇りもなく磨き上げられていた。
「ふん、まだまだ甘いな。……おいコアちゃん、袋が満杯だ。交換だ」
「はい、マスター! 回収はお任せください!」
秘書のコアちゃんが、満杯になったゴミ袋の口を縛り、指をパチンと鳴らした。
「重力操作(グラビティ・キャリア)!」
フワッ。
45リットルのパンパンに詰まったゴミ袋が、風船のように宙に浮いた。
「え? う、浮いた!?」
観客が驚く中、コアちゃんは次々と満杯になった袋を浮かせ、自分の背後に整列させた。
1つ、2つ、10個、50個……。
黒いゴミ袋の群れは、まるで一匹の巨大な黒いムカデのように連なり、少女の後ろをフワフワとついていく。
「ふふっ♪ マスターが集めたゴミは、塵一つ残さず私が管理しますからね♪」
ニコニコと笑う美少女と、その背後にうごめく数百の黒い袋。
その光景は、真夏の怪談よりも恐ろしかった。
『ヒェッ……』
『百鬼夜行かな?』
『現代の妖怪・袋女(ふくろおんな)』
『夜道でこれとすれ違ったらチビる自信ある』
『物理 (トング)と魔法 (重力)の使い方がおかしいwww』
一方、その頭上では──。
「不潔です! あまりにも不潔です!」
高所作業班のミカエルが、駅前の「銅像」の上空で激怒していた。
新宿のシンボルとも言えるその像の頭上には、無数の鳩が群がり、白い爆撃(フン)を投下しようとしていたのだ。
「神聖なる偶像に対し、排泄物を落とすなど言語道断! 去りなさい、空飛ぶ不法投棄者よ!」
ミカエルは翼を広げ、銅像全体を包み込むように手をかざした。
「展開──【|聖なる結界(アンチ・バード・フィールド)】!」
ブォン!
銅像の周囲に、幾何学模様の光の壁が出現した。
鳩たちが次々と結界に弾かれ、ポヨンポヨンと空中に跳ね返される。
「こ、ここまでするか!?」
「銅像を守るために聖結界!?」
「その魔力、もっと人類のために使うべきでは!?」
通行人たちがスマホを向けて騒ぐが、ミカエルは真剣そのものだ。
「ソウジ様が仰いました。『鳥のフンは酸性だから、放置すると銅像が腐食する』と! これは聖戦なのです!」
地上ではソウジが神速のトング二刀流で道を清め、
背後ではコアちゃんがゴミ袋の百鬼夜行を引き連れ、
空ではミカエルが鳩と聖戦を繰り広げる。
そして、剣崎とセシリアは──。
「うおおおお! 空き缶! ペットボトル! 全部ミミちゃんへのチケットだァァァ!」
「邪悪(ガム)を削ぎ落としますわ! 待っていてくださいミミちゃん!」
推しへの愛を燃料に、鬼の形相で分別とスクレイパー作業に没頭していた。
「……あいつらも精が出るな」
ソウジは額の汗を拭い、満足げに頷いた。
ライバルの『ブレイブ・ナイツ』が派手な爆発音を響かせる一方で、クリーン・ファンタジー社は、静かに、しかし確実に新宿の「汚れ」を侵食(クリーニング)していた。
だが、この平穏な(?)清掃活動もここまでだ。
ソウジの視界の端──繁華街の裏路地の吹き溜まりに、どす黒いオーラが渦巻いているのが見えた。
【解析:生ゴミの腐敗臭】
【解析:不法投棄された粗大ゴミの山】
【警告:害虫の巣窟】
「……あーあ。やっぱりあるか、特大の『汚部屋』が」
ソウジはトングを回し、ニヤリと笑った。
ここからが本番だ。
分別を知らないライバルたちが手を出せない、本物の「ゴミ(モンスター)」の処理が始まる。
(続く)
コメント