第38話:分別こそが『正義』

 競技開始から一時間が経過した頃。
 新宿中央公園に設置された「臨時ゴミ集積所」は、まさに地獄の様相を呈していた。

「おいコラ! 燃えるゴミの袋にカン・ビンを入れるな! 袋が破れるだろ!」

「ええい、うるさい! 俺たちが倒した(拾った)モンスターの死骸だぞ! 敬意を払わんか!」

「中身が入ったままのペットボトルを捨てるなーッ! ベタベタするんだよぉぉ!」

 東京都の清掃局員たちの悲鳴と、探索者たちの怒号が飛び交っている。
 特に酷いのが、ライバルクラン『ブレイブ・ナイツ』の持ち込みエリアだ。

「おい、これを見ろ! 我々の成果だ!」

 リーダーの『紅蓮のレオ』が、ドヤ顔で黒焦げの物体を積み上げた。
 魔法で焼き尽くされたゴミと、破壊された粗大ゴミの残骸だ。

「……あのですね、これじゃ『分類不能』なんですよ。灰は産業廃棄物扱いになるし、溶けたプラスチックがアスファルトにへばりついて……」

「あぁン!? 細けぇことはいいんだよ! 全部まとめて埋めちまえ!」

 レオが逆ギレし、係員が頭を抱える。
 会場の空気は最悪だ。このままでは大会の進行自体が危ぶまれる。

 その様子を、少し離れた場所から見ていた男がいた。
 株式会社クリーン・ファンタジー人事部長、剣崎だ。

「……許せない」

 彼のメガネが、キラリと鋭い光を放った。

「ゴミをあんな風に扱うなんて……リサイクルへの冒涜だ。何より、このままでは大会が中断され、ミミちゃんへの謁見(表彰式)が中止になる恐れがある!」

「そうですわ剣崎さん! 私たちの愛(推し活)が、マナーの悪い連中に邪魔されてたまるもんですか!」

 隣で聖女セシリアも、ペンライトを武器(スクレイパー)に持ち替えて激怒している。
 二人の背後には、推しへの執念という名のオーラが立ち昇っていた。

「社長! 行ってきます!」

「おう、行ってこい。俺は裏路地のデカい汚れを見てくる」

 灰坂ソウジの許可が出た瞬間、剣崎は猛然とダッシュした。

 ***

「どいてください! 素人は下がって!」

 剣崎は集積所の最前線に躍り出た。
 目の前には、他のクランが適当に持ち込んだ、未分別のゴミの山が築かれている。

「なんだァ? エリート様が出てきて何ができるって……」

 レオが鼻で笑おうとした、その時。

 カッ!!

 剣崎の両目が、バーコードリーダーのような青い光を放った。
 覚醒スキル発動──【超高速分別眼(ソーティング・アイ)】

 かつて宇宙空間でデブリを仕分け、日々数千通のスパムメールを処理することで鍛え上げられた、事務処理の極致だ。

「とくと見よ! これが日本のサラリーマンの『分別(常識)』だァァァッ!」

 シュババババババババッ!!!

 剣崎の両手が残像と化した。
 彼はゴミの山に手を突っ込み、目にも留まらぬ速さで物体を放り投げ始めた。

「ペットボトル! キャップを外す! ラベルを剥がす! 中身を洗う! 潰す! はい資源ゴミ!」

「空き缶! スチールとアルミを磁力選別! 潰す! はい資源!」

「スプレー缶! ガス抜き確認ヨシ! 穴あけ不要! 危険物エリアへ!」

「ピザの箱! 油汚れは再生不可! 小さくちぎって燃えるゴミ!」

 速い。あまりにも速すぎる。
 彼が通った後には、種類ごとに完璧に仕分けされたゴミのタワーが出来上がっていく。

「な、なんだあの動きは……!?」

「キャップに残った『リング』まで外しているだと……!?」

「しかも、飲み残しのタピオカを一瞬で吸引して洗浄したぞ!?」

 係員たちが驚愕し、やがて涙を流して拝み始めた。

「師匠……! いや、分別の神よ!」

「ふん、この程度。日々の採用面接(人選)に比べれば造作もない!」

 剣崎は止まらない。セシリアも聖水を使って資源ゴミの洗浄を手伝う。
 さらに、コアちゃんもサポートに入った。

「剣崎さん、セシリアさん、ナイス分別です! あとは私にお任せを♪」

 彼女は剣崎が積み上げた空き缶の山に向かって、可愛らしく手をかざした。

「空間圧縮(トラッシュ・プレス)!」

 ドグシャァァァ……ッ!!

 空間がひしゃげるような重低音と共に、数百個の空き缶が一箇所に凝縮された。
 一瞬の後。
 そこには、高密度に圧縮された「金属のサイコロ(インゴット)」が転がっていた。

「はい、コンパクトにしました♪ これなら場所を取りませんね!」

「ひぃぃッ!? 空き缶がサイコロステーキに!?」

「あの子、いま魔法でプレス機以上の圧力をかけなかったか!?」

 ブレイブ・ナイツの面々が青ざめる。
 剣崎の神速分別と、コアちゃんの超重力圧縮。
 この最強のコンボにより、パンク寸前だった集積所は、みるみるうちに「整然とした資源置き場」へと変貌していった。

「す、素晴らしい……! これぞ『美しいゴミ出し』だ!」

 審査員を務める都の職員が、震える手で点数盤を操作する。

【クリーン・ファンタジー:加点 50,000pt(環境配慮ボーナス含む)】

 圧倒的なスコア差がついた。

「バ、バカな……! ゴミを燃やさずに、ちまちま分けるだけでこの点数だと!?」

 レオが地団駄を踏むが、後の祭りだ。
 剣崎は汗一つかかずにドヤ顔で言い放つ。(実際は滝のような汗だが、推しへの愛で蒸発している)

「力任せの破壊など、掃除ではありません。……さあ、ミミちゃんへの道は拓けましたよ!」

「ええ! 残るは社長の『大物回収』だけですわ!」

 セシリアもガッツポーズをする。
 会場の空気は完全にクリーン・ファンタジーのものとなっていた。

(続く)

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