第4話 聖剣の正体は『課金誘導ガジェット』でした ~勇者様、その剣には故障を誘発する【ゴブリン・タイマー】が仕込まれていますよ~

 王都の一等地にそびえ立つ、黄金色のビル。
 会員制カジノ「ゴールド・ラッシュ」。

 そのVIPルームで、勇者アルヴィンは血走った目でルーレット台を睨みつけていた。

「赤だ! 次は絶対に赤が来る!」

 彼の手元には、借金をしてかき集めた100万マナのチップが積み上げられている。

 昨日の「保険料500%増額」の通知により、彼は一発逆転を狙うしかなかったのだ。

「へへっ、俺にはこの『聖剣』があるからな……」

 アルヴィンは、なんとか利用料を払って復活した、腰に差した聖剣『エターナル・ブレイブ』を撫でた。

 この剣にはパッシブスキル【強運ラッキー・スター】が付与されている。

 これさえあれば、ギャンブルなど赤子の手をひねるようなものだ。

「おいディーラー! 全額ベットだ! これで借金もチャラにしてやる!」

 ◇

 カジノの向かいにあるオープンカフェ。

 私は優雅に、最高級豆を使った「エリクサー・コーヒー」の香りを楽しんでいた。

「……愚かですね。カジノの還元率RTPも計算できないとは」

 テーブルの上には、アリスが展開したホログラム映像が浮かんでいる。

 そこには、カジノで熱狂するアルヴィンの姿と、彼が頼りにしている聖剣の「内部プログラム」が映し出されていた。

「ねえクリフ。この剣、やっぱり【黒】だよ」

 アリスがポテトを齧りながら、解析結果を指差す。

「カタログスペックでは『運気上昇率20%』って書いてあるけど、内部コードを見たら『実測値0.01%』しかない。完全に表記詐欺だね」

「やはり。大手メーカー『王都兵器商会』のやりそうなことです」

 私は眼鏡の位置を直した。

「しかも、もっと悪質なプログラムが見つかりましたよ。これを見てください」

[聖暦1024/10/05] 内部コード監査ログCODE_AUDIT_LOG
―――――――――――――――――――
対象:聖剣『エターナル・ブレイブ』
解析者:Alice_CTO

▼ 1. 運気補正率(Luck Mod)
[Spec ] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓
(+20.00% / Catalog Value)
 ↓
[Real ] ▓
(+0.01% / Actual Value)

▼ 2. 検出された悪性プログラム
File: Goblin_Timer.exe
Trigger: 1 Year or High Stakes
Effect: 《Force_Failure (Breakdown)》
―――――――――――――――――――

「うわぁ……いわゆる【ゴブリン・タイマー】ってやつ? 壊れるように作ってあるんだ」

「ええ。修理費で稼ぐビジネスモデルですね。……さて」

 私は石板を取り出し、一つの宛先を表示させた。

 『王都兵器商会・広報部』

 勇者のスポンサー企業だ。

「この事実を、正しく『監査』して差し上げましょう」

 ◇

 王都兵器商会、本社ビル。

 広報部長のデスクにある通信魔石が、けたたましく鳴り響いた。

『――というわけで。御社の主力商品である聖剣に、違法な劣化プログラムが仕込まれている証拠を掴みました』

 通信の向こうから聞こえる冷静な声に、部長は脂汗を流した。

「き、君は誰だ!? デタラメを言うな!」

『元・勇者パーティ会計係のクリフです。この解析データを、ゴシップ誌の『週刊暴露ウィークリーク』に垂れ込んでもよろしいですか? 見出しはそうですね……【聖剣は詐欺商品だった!】なんてどうでしょう?』

「や、やめろ! それが出たら株価が大暴落する!」

『では、取引といきましょう』

 通信越しの私は、冷徹に告げた。

『勇者アルヴィンとのスポンサー契約を、即時解除してください。理由は「品位を欠く行為(ギャンブル)があったため」として。……そうすれば、このデータは墓場まで持っていきます』

「くっ……わ、わかった! 今すぐ切る! だからリークだけは勘弁してくれ!」

 部長は震える手で、システム管理画面の「契約解除(Terminate)」ボタンを叩いた。

 ◇

 カジノ「ゴールド・ラッシュ」。

「さあ来い! 赤だ! 赤!!」

 ルーレットの球が回転し、運命のポケットに落ちようとした、その瞬間。

 ――ブツンッ。

 アルヴィンの腰にある聖剣から、嫌な音がした。

 同時に、刀身を覆っていた神々しいオーラが消失し、ただの重たい鉄の塊へと変貌する。

「あ?」

 アルヴィンの目の前に、無慈悲なウィンドウがポップアップした。

[聖暦1024/10/05 21:00] スポンサー契約解除通知CONTRACT_TERMINATION
―――――――――――――――――――
通達元:王都兵器商会・広報部
理由:品位保持義務違反(カジノ賭博)

これに伴い、聖剣のアクティベーションを停止します。
直ちに装備を返却してください。

▼ 聖剣ステータス
[Active] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓
(Holy Sword Mode)
 ↓
[Locked] ▓
《Iron Scrap Mode (Atk: 0)》
―――――――――――――――――――

「はあああ!? なんでだよ!! 今いいところなんだぞ!!」

 アルヴィンが叫んだ瞬間。
 カラン、コロン。

 ルーレットの球が落ちた場所は――「黒」だった。

「――はい、黒の15番。親(カジノ)の総取りとなります」

 ディーラーが無表情に告げ、レイキ回収棒で山積みのチップをさらっていく。

[Casino Log] ベット結果通知BET_RESULT
―――――――――――――――――――
Game: Roulette / Bet: Red / Result: 《Black》

▼ プレイヤー所持チップ
[Bet  ] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓
(1,000,000 Mana)
 ↓
[Result] ▓
《0 Mana / LOST》
―――――――――――――――――――

「あ、ああ……俺の金……借金した100万マナが……」

 アルヴィンは、ただの鉄屑になった元・聖剣を抱きしめ、その場に崩れ落ちた。

 周囲の客たちが、冷ややかな視線を向ける。

「見ろよ、勇者様が無一文だぜ」
「ダッサ……聖剣も没収か?」
「借金どうすんだろ」

 ◇

 カフェのテラス席。

 その様子をモニターで見ていた私は、満足げにコーヒーを飲み干した。

「放っておいても結果は同じだったでしょうが、聖剣が使えなくなるのは精神的に効いたでしょう。
 武器を失い、金を失い、信用も失った。……さあ、撤収しましょうアリス」

「うん! あー面白かった。ねえクリフ、このあとショッピング行かない? 新しいキーボード欲しいな」

「いいですね。経費で落としましょう」

 私たちは颯爽と席を立ち、カジノでうなだれる勇者には目もくれず、繁華街へと消えていった。

 だが、まだ終わりではない。

 彼にはまだ、「隠し財産」があるはずだ。

 海外のペーパーカンパニーに隠した、数億マナの脱税マネーが。

「次は……国税局マルサを動かしますよ」

(続く)

[System Notification] 次回予告NEXT_PREVIEW
―――――――――――――――――――
勇者「ふん、国内の口座が凍結されても、俺には海外の隠し口座があるもんね!」
クリフ「おや、それは脱税の自白ですか? ――どうぞお入りください、統括官」

次回、伝説の査察官『マルサの魔女』が登場し、勇者の豪邸に赤紙(差押え札)が舞う!

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