巨大コロコロ(スライム粘着仕様)によって、通路を塞いでいたホコリ(初期バグモンスターたち)を完全に絡め取ったソウジ。
大家(創造主)の小賢しいロックを解除した【真実の魔眼(解析ゴーグル)】には、もはや意味不明なエラーメッセージは一切表示されていなかった。
「よし、ホコリは片付いた。大家の部屋まで一気に乗り込むぞ!」
ソウジを先頭に、クリーン・ファンタジーの一行は新宿ダンジョンの深層を突き進む。
しかし、かつてコアちゃんが鎮座していた最深部の部屋へ続く最後の大通路に差し掛かった時、彼らの足は再びピタリと止まった。
「……なんですか、あれは」
セシリアが、信じられないものを見るような目で呟いた。
通路を完全に塞ぐようにそびえ立っていたのは、高さ数十メートルにも及ぶ『異常な残骸の山』だった。
折れた神話級の武器、砕けたモンスターの骨、剥がれ落ちたテクスチャ、そしてチカチカと点滅するエラーデータの塊。それらが物理法則を無視して融合し、巨大な「壁」となって道を塞いでいたのだ。
【解析:極めて悪質な未処理データの山】
【状態:数千年分の不要なログとオブジェクトの残骸】
ゴーグルの表示を見たソウジの顔に、青筋がピキッと浮かび上がった。
「あの大家……! 不要になった粗大ゴミを、処理もせずに通路に不法投棄して溜め込みやがったな!!」
「そ、粗大ゴミってレベルじゃないですよ社長! 完全に空間と融合した『防壁』になってます!」
剣崎が悲鳴を上げる。
これはダンジョンの防衛システムが作り出した、絶対に突破不可能な「世界の未処理データの防壁」。
しかし、ソウジにとっては、ただの『ゴミ屋敷の入り口』でしかなかった。
「ふざけんな! 燃えるゴミも不燃ゴミも、資源プラもごちゃ混ぜじゃねぇか! こんなもん、まとめて圧縮したら処理場で怒られるだろうが!」
ソウジは怒り狂って叫んだ。
コアちゃんの重力魔法で一気に押し潰すことは可能だが、清掃業者のプロとして「分別のされていないゴミをまとめて捨てる」ことは、絶対に許されないタブーだった。
「チッ!一つ一つ手作業で仕分けていくしかねぇ。だが、この量じゃ何年かかるか……」
ソウジが珍しく舌打ちをした、その時だった。
「社長! ここは俺に任せてください!」
剣崎が、ビシッと前に進み出た。
彼の目には、かつてないほどのプロフェッショナルな光が宿っている。
「剣崎……お前」
「南極では足手まといになっちまいましたが……『ゴミの分別』なら、ウチの会社で俺の右に出る者はいませんよ! トラッシュ・マスターの名に恥じない働きをお見せしましょう!」
剣崎はスーツのネクタイを緩め、コアちゃんを振り返った。
「コアちゃん! 俺が猛スピードで仕分ける! 指示通りに重力で引っこ抜いて、分別圧縮してくれ! それなら手間も時間も減らせるはずだ!」
「はい、人事部長! いつでもいけます!」
コアちゃんが両手を構え、重力魔法の出力を高める。
剣崎は深く息を吸い込み、限界突破のスキルを発動させた。
「見極めろ……! 覚醒スキル──【超高速分別眼(ソーティング・アイ・オーバードライブ)】!!」
カッ!!
剣崎の瞳が、青いバーコードリーダーのような強烈な光を放つ。
彼の視界の中で、複雑に絡み合った世界の未処理データ(ゴミの山)が、次々とカテゴリーごとに色分けされていく。
「右上、青く光った岩石データは『不燃ゴミ』! 左下の骨は『燃えるゴミ』! 中央で光ってる神話級の剣は『資源(リサイクル金属)』だ!!」
「了解です! 【重力操作・分別圧縮(トラッシュ・ソート・プレス)】!!」
剣崎の神がかった指示に合わせ、コアちゃんが指を弾く。
すると、巨大な防壁から指定されたゴミだけがスッポリと抜け出し、宙に浮き上がって「ポンッ!」とサイコロ状の綺麗なブロックに圧縮されていく。
「次! 赤い点滅データは危険物だから別にしろ! そこのスライムの残骸は『生ゴミ』だ、水気を切れ!」
「はいはーい! どんどんいきますよー♪」
ズガガガガガッ!! ポンッ! ポンッ!
息の合った二人の連携により、絶対に突破不可能とされた「世界の防壁」が、みるみるうちに綺麗な『分別ゴミのブロック』へと変換されていく。
『うおおおお! 剣崎部長かっけえええ!』
『分別のスピードが異常すぎるww』
『ただのゴミ回収業者の連携プレイじゃねぇか!』
『S級防壁が、ただの粗大ゴミ回収日に』
『資源プラと燃えるゴミを瞬時に見分ける男』
『骨って燃えるゴミなのかwww』
「……へっ、大した人事部長だ」
その凄まじい手際を見つめながら、ソウジはトングをカチカチと鳴らして満足げに笑った。
かつてはプライドばかり高かった元S級探索者が、今や世界を救うための「完璧なゴミの分別」に命を懸けている。
「セシリア! 圧縮されたブロックを荷台に積め! 大家の部屋まで、あと少しだ!」
「承知いたしましたわ! 主の御名において、綺麗に積み込みます!」
数分後。
数千年分の未処理データが積み上がっていた巨大な防壁は、跡形もなく消え去り、ピカピカに清掃された通路だけが残った。
「はぁ、はぁ、はぁ……! や、やりましたよ社長! 完全分別、完了です!」
汗だくになった剣崎が、親指を立てて笑いかける。
「ああ、よくやった。ボーナス査定、特Aにしてやるよ」
ソウジは剣崎の肩をポンと叩くと、視線を真っ直ぐ前に向けた。
通路の先──かつてコアちゃんが引きこもっていた、ただの「行き止まり」の部屋。
だが、今のソウジの魔眼には、その行き止まりの壁の『真の姿』がハッキリと見えていた。
「さあ、着いたぞ。ここが大家の『玄関』だ」
(続く)
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