第53話:限界突破のディープ・クリーニング

 剣崎とコアちゃんの完璧な分別作業により、数千年分の未処理データ(巨大なゴミの防壁)を突破したクリーン・ファンタジーの一行。

 彼らが辿り着いたのは、新宿ダンジョン深度2000メートルの最奥。かつてダンジョンコアであったコアちゃんが、ぽつんと鎮座していた「ただの行き止まりの小部屋」だった。

「社長……ここが大家の玄関って、ただの岩壁の行き止まりですよ?」

 剣崎が首を傾げる。
 周囲を見渡しても、ゴツゴツとした岩肌が広がっているだけで、扉らしきものは一切見当たらない。

「おかしいなー。空間圧縮の魔法を教わった時に、大家さん、この奥に住んでるって言ってたんですけど……」

 コアちゃんも不思議そうに壁をペタペタと触る。
 しかし、大家(創造主)の認識ロックを剥がし終え、完全にクリアになったソウジの【真実の魔眼(解析ゴーグル)】には、その岩壁の『おぞましい真実』がハッキリと映し出されていた。

【解析:極厚の汚れ】
【状態:深刻な油膜とカビの上に、直接上塗りされた偽装壁紙】

「……おいおい、マジかよ」

 ソウジはトングを持ったまま、ワナワナと肩を震わせた。

「あのクソ大家……! 隠し扉をカモフラージュするのは百歩譲って許す。だが、『何千年も放置したガンコな油汚れとカビ』の上から、掃除もせずに直接新しい壁紙(テクスチャ)を貼りやがったな!!」

「えっ!? これ、岩壁じゃなくて壁紙なんですか!?」

「ああっ! 見ろ、下地の汚れを落とさずに貼るから、接着剤が浮いて岩肌がヨレて剥がれかけてるじゃねぇか! こんなド素人以下の手抜きDIY、清掃業者として絶対に許せねぇ!」

 ソウジの怒りが頂点に達した。
 大家(創造主)がシステムをいじって作った強固な「空間偽装の壁」。だが、ソウジにとっては「下地処理をサボった最悪の壁紙クロス」に過ぎない。

「汚れを隠すために上からフタをするような奴は、万死に値する。……根こそぎ剥がして、下地から洗い直してやる!」

 ソウジはバンの荷台から、強烈なシンナー臭を放つ銀色の缶と、先端が鋭く尖った金属製のヘラを引っ張り出した。
 特製の【業務用・超強力剥離剤(ゴーレム・リムーバー)】と、オリハルコンで作られた【特大スクレーパー】である。

「みんな! マスクしろ! 換気が悪いから剥離剤のガスで倒れるぞ!」

「承知いたしましたわ! 聖なるフィルターを装着します!」

 防毒マスクを被ったソウジは、行き止まりの岩壁に、ドロドロとした強力な剥離剤をたっぷりと塗りたくった。

 ジュゥゥゥゥゥゥッ……!!

 直後、岩壁がまるで溶けたプラスチックのようにブクブクと泡を吹き、世界の境界線が歪み始める。剥離剤が、創造主の作った「偽装コード」を分解しているのだ。

「よし、壁紙の糊が浮いてきたな。一気に削り落とすぞ!!」

 ソウジは特大スクレーパーを両手で構え、ブクブクに浮き上がった岩壁の隙間に、力任せに金属の刃をねじ込んだ。

「オラァァァァァッ!!」

 ガリガリガリガリガリガリッ!!!

 ソウジが体重をかけてスクレーパーを押し込むと、「岩壁」という名の世界のテクスチャが、まるで安物のシールのようにベロベロと剥がれ落ちていく。
 分厚い岩の皮膜の下から、ヘドロのような極厚の汚れ(バグ)が飛び散った。

『壁削ってるwwww』
『マップのテクスチャが剥がれてくぞ!?』
『ウォールハック(物理)』
『S級ダンジョンの最深部が、ただのクロス張替え現場に』
『怒るポイントが完全に内装業者なんだよなぁ』

「ふんぬぅぅぅッ!!」

 メチャァッ! ベリベリベリッ!!

 ソウジの限界突破のディープ・クリーニング(物理的な壁削り)によって、偽装されていたダンジョンのテクスチャと、その下に溜まりに溜まった数千年分の汚れ(バグ)が完全に剥がれ落ちた。

「……ふぅ。これで下地がスッキリしたな」

 ソウジが額の汗を拭いながらスクレーパーを下ろすと、そこにはもう「行き止まりの岩壁」は存在しなかった。

 代わりに現れたのは、周囲の雰囲気から完全に浮いた、無機質で超重厚な「金属製の両開き扉」。
 その中央には、赤く発光する電子ロックのパネルと、はっきりと読める言語でこう刻まれていた。

 【Admin(管理者権限用メンテナンスハッチ)──関係者以外立入禁止】

「出やがったな、クソ大家の玄関口が」

 ソウジは薄汚れた金属扉をトングでコンコンと叩き、凶悪な笑みを浮かべた。
 世界の裏側、創造主の部屋への「真の扉」を、清掃業者が掘り当てた瞬間だった。

(続く)

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