第56話:資源とゴミの『最終分別』

「ちょっと汚れたからって……『家』ごと捨てるバカがいるかァァァッ!!」

 灰坂ソウジの怒声が、枯渇惑星(空のペットボトル)が散乱する神のゴミ屋敷にビリビリと響き渡る。

 しかし、スウェット姿で星屑のソファに寝転がる創造主(大家)は、曇りきったモニターの顔面に「めんどくさい(´Д`)」という顔文字を浮かべていた。

『うわっ、暑苦しいおっさん……。もうフォーマット(全削除)は決定事項だから。業者はさっさと帰ってよ』

 創造主がタブレットの画面を面倒くさそうにスワイプする。
 すると、空間に散乱していた無数の枯渇惑星、砕けた隕石、そして世界中から集められたバグデータが、創造主の意志に従って一つに融合し始めた。

『帰らないなら、これでお掃除してあげる。僕の部屋のゴミで作った【全宇宙の鬱憤の集合体】でね』

 ズゴゴゴゴゴォォォォッ!!
 現れたのは、見上げるほど巨大な「宇宙ゴミの化身」だった。
 無数のバグと廃棄データが絡み合い、触手のようにうごめいている。それは神話級ドラゴンすら赤子のように捻り潰す、文字通り「世界を終わらせるエラーの塊」だった。

『ギガァァァァァァッ!!(消去! 全テ消去ォォッ!)』

 宇宙ゴミの化身が咆哮を上げ、クリーン・ファンタジーの一行に向けて、無数の隕石や破損データの雨を一斉に撃ち出してきた。
 直撃すれば、世界を構成する素粒子レベルでデリートされてしまう絶対の暴力。

「チッ、また分別もせずにゴミを撒き散らしやがって。俺がまとめて――」

 ソウジが前に出ようとした、その時だった。

「社長! 下がっていてください!」

 ソウジと共に数々の修羅場を乗り越え、頼れる人事部長に成長した男が、両手を広げて立ちはだかった。
 彼のスーツはすでにボロボロで、ネクタイは額に巻いている。

「剣崎……?」

「不法投棄されたゴミの『仕分け』は、ウチの会社じゃ俺の担当でしょうが! 回収日のルールを守らねぇ大家のゴミは、俺が全部叩き返してやりますよ!!」

 剣崎は覚悟を決めたように目を見開き、コアちゃんへと叫んだ。

「コアちゃん! 俺が宇宙一のスピードで分別する! 一瞬の判断ミスも命取りだ、俺の指示に完璧についてこれるか!?」

「はい、人事部長! 私、こう見えても元・神話級ダンジョンコアですから! どんなデータも完璧に圧縮します♪」

 コアちゃんが両手を前に突き出し、重力魔法の出力を神の領域まで引き上げる。
 剣崎の瞳が、これまでにないほど強烈な、まるで超新星爆発のような青い光を放った。

「限界突破……! 究極覚醒スキル――【最終分別眼(ファイナル・ソート)】!!」

 カッ!!
 剣崎の視界の中で、神が放った無数のエラーの雨が、極限までスローモーションになり、完全に「カテゴリー別のゴミ」として色分けされていく。

「正面の隕石群は『不燃ゴミ』だ、弾き返せ! 右から来るバグデータは『有害ごみ』だ、絶対に割るな! 優しく包んで隔離しろ!」

「えぇぇぇいッ! 【重力反発(リジェクト)】! 【無重力隔離(アイソレート)】!」

 コアちゃんの重力魔法が、剣崎の指示通りに寸分違わず展開される。
 隕石は不可視の壁に弾かれ、触れただけで消滅させられるはずのバグデータは、割れ物を扱うように優しく重力球の中に隔離されていく。

『なっ……!? 僕の絶対消去攻撃が、全部完璧に捌かれてる!?』

 創造主のモニター顔に「(°Д°)」という驚きの顔文字が浮かぶ。

「まだまだァ! 左のレーザー群はただの光だ、『可燃ゴミ』としてまとめて圧縮! ……おおっ!? コアちゃん、上から来る神話級の武具はレアメタルだ! 『資源プラ』と同じリサイクル枠で回収しろ!」

「了解です! 【重力圧縮(プレス)】! 資源はお持ち帰りしまーす!」

 ポンッ! ポンッ! ポンッ!
 世界を終わらせるはずの神の無慈悲な攻撃が、剣崎の神がかった「分別」と、コアちゃんの「回収」によって、次々と『四角く圧縮された資源ブロック』へと変換され、バンの荷台に綺麗に積み上げられていく。

『嘘だろ……!? 全宇宙の鬱憤を込めた最強のバグの塊が……【新宿区・木曜日の資源回収】みたいに処理されてる……!?』

「甘いんだよ大家ァ! ゴミ出しのルールを舐めるな!!」

 剣崎の叫びと共に、コアちゃんが最後の一つまで完全に資源ブロックへと変え、神の絶対攻撃は完全に無力化された。

『神の攻撃をリサイクルすなwww』
『剣崎が無双してる……だと!?』
『あのビビりだった剣崎部長が、宇宙最高のゴミ清掃員に覚醒した』
『「有害ごみだから割るな」でダメだったww』
『新宿区のゴミ出しルール、宇宙より厳しい説』

「……はぁ、はぁ、はぁ……!」

 すべての分別を終え、剣崎がその場に膝をついて荒い息を吐く。
 その背中越しに、ソウジが雑巾を握りしめて歩み出てきた。

「見事だ、剣崎。完璧な分別だったぞ」

「へへっ……社長にそう言ってもらえるなら……額にネクタイ巻いて頑張った甲斐がありますよ」

 ソウジは剣崎の肩をポンと叩くと、再び創造主へと鋭い視線を向けた。

「さて。粗大ゴミの処理は終わった。次は、部屋に染み付いた『陰気な空気』の換気と浄化だ」

(続く)

コメント

タイトルとURLをコピーしました