第59話:宇宙公認・特別メンテナンス業者

『……ありがとう、お掃除のおじさん。僕、もう一回ちゃんとこの世界を手入れしてみるよ』

 ソウジの『ただの雑巾』によって、顔面(モニター)を覆っていた分厚い皮脂汚れと手垢を完全に拭き取られた創造主。
 ピカピカに磨き上げられ、新品だった頃の輝きを取り戻したその画面には、銀河の星々を映し出す澄み切った光と、「(´▽`)(感謝)」の顔文字が浮かんでいた。

 彼はようやく、自らが創り出した世界がどれほど美しく、愛おしいものであったかを思い出したのだ。

「おじさんじゃねぇ、クリーン・ファンタジーの灰坂だ。……わかればいいんだよ。次は家ごと腐る前に連絡しろ。ちゃんと見積もり出してから来るからな」

 ソウジが汚れた雑巾をギュッと絞り、洗剤の入ったバケツに放り込んだ、その時。
 ゴミが片付き、澄んだ空気が流れるようになった神の部屋に、どこからともなく心地よいシステム音とファンファーレが鳴り響いた。

【システムメッセージ:創造主(Admin)により、全エリアのバグ修復パッチが適用されました】
【対象:南極大陸のテクスチャ欠損(漂白)の復元開始】
【対象:エジプトの空間エラー(酸焼け)の修復開始】
【対象:世界各地の物理法則の再計算、および破損データのクリーンアップを実行中……】

「しゃ、社長! やりましたよ! これ見てください、ニュース速報です!」

 剣崎が、震える両手でスマートフォンを高く掲げた。

 画面の向こうでは、各国のニュースキャスターたちが涙を流しながら絶叫している。映像には、真っ白に色抜けして砂のように崩落していた南極の氷床が、元の透き通るような青々とした輝きを取り戻していく様が映し出されていた。

 さらに、エジプトのピラミッドに空いていた「光すら通さない黒い虚無の穴」が、まるで時間を巻き戻すかのように黄金の石組みで塞がれていき、ニューヨークで線画のように透けていたビル群にも、確かな質量を持ったテクスチャが次々と上塗りされていく。

「マスターの雑巾がけが、本当に世界を救っちゃいましたねー♪」

 コアちゃんが歓喜の声を上げてソウジに抱きつき、ピョンピョンと跳ね回る。

「主の御名において……これぞ究極の浄化! 素晴らしい大掃除でしたわ!」

「ええ。天界の記録にも、最高位の奇跡として永遠に刻まれることでしょう」

 セシリアが両手を組んで祈りを捧げ、ミカエルも誇らしげに翼を広げて頷いた。
 剣崎に至っては、「俺、ついに世界を救う大仕事をやりのけたんすね……!」と、ボロボロのスーツ姿で男泣きしている。

『君たちには、本当に迷惑をかけたね。お詫びと言ってはなんだけど……これを受け取ってよ』

 創造主は手元のタブレットを操作し、クリーン・ファンタジー社に向けて、一枚の黄金に輝く「デジタル許可証」を発行した。
 それはソウジの目の前にフワリと浮かび上がり、まばゆい光を放ちながら、一枚の重厚なゴールドカードへと実体化した。

『君たちを、【宇宙公認・特別メンテナンス業者】に指名するよ。それはどんな管理者権限のロックもスルーできるマスターキー付きの身分証だ。……これからも、この世界の汚れを綺麗にしてくれるかな?』

「……フッ。公認だろうが非公認だろうが、依頼と金さえ払えばどこへでも行くさ。俺たちはプロの清掃業者だからな」

 ソウジは空中に浮かぶ黄金の許可証をガシッと掴み取ると、作業着のポケットに無造作に突っ込み、腰のトングをカチリと鳴らして不敵に笑った。

『うおおおおおおお!!』
『終わった……マジで世界が救われた……(号泣)』
『宇宙公認業者www スケールでかすぎwww』
『神から直々にマスターキーもらう清掃員、ヤバすぎるだろ』
『伝説のS級清掃員、ここに完全爆誕!!』
『ソウジ社長! クリーン・ファンタジー社に一生ついていきます!!』
『俺も……絶対自分の部屋の掃除するわ……明日から』

 ComeProが映し出す画面は、同時接続数数億人という人類史上最大の記録を叩き出し、世界中からの感謝と歓喜のコメント、そして画面が見えなくなるほどの凄まじい投げ銭エフェクトで埋め尽くされていた。

 こうして、世界を飲み込もうとした未曾有のバグ(老朽化)は、一人の清掃員とその愉快な社員たちによる「究極のクレーム対応」によって、見事に洗い流されたのであった。

(続く)

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