その夜。
空が裂けるような轟音で、ミミは目を覚ました。
「ひっ……!」
段ボール箱の中で、ミミは自身の尻尾を抱きしめて震える。
外は猛烈な嵐だった。
この家は完全防音のはずだが、それでも大地を揺らすほどの落雷の振動までは防げない。
ズズズ……と床から伝わる不穏な震え。
ミミは恐る恐る箱から顔を出し、カーテンの方を見た。
分厚い遮光カーテンを閉め切っているはずだが、その隙間から。
強烈な閃光が漏れ出し、部屋を一瞬だけ青白く焼き付ける。
(こわい……。誰か……)
心細さに押しつぶされそうになりながら、ミミは「外の様子を確認しなきゃ」という衝動に駆られた。
震える手で、カーテンの端をほんの数センチだけめくる。
――カッッッ!!!!
直後、世界が白く染まった。
ガラス壁の向こう。
叩きつけるような暴風雨の中に。
――「それ」はいた。
雷光に照らされた庭の真ん中に。
黒いローブを纏った、三つの人影。
彼らは微動だにせず、嵐の中で仁王立ちして、じっとこちらの窓を見つめている。
逆光で顔は見えないが、その眼光だけがギラリと光った気がした。
「……ッ!?」
ヒュッと喉が鳴る。
お化けだ。
あるいは、この嵐に乗じて魂を狩りに来た死神だ。
そうでなければ、こんな台風の中に直立不動で立っている人間がいるはずがない。
人影の一つが、ゆらりと動いた。
「い、いやぁぁぁぁ!!」
ミミは悲鳴を上げ、カーテンを閉めて段ボールの中に飛び込んだ。
蓋を閉じて、ガタガタと震えながら祈る。
「ごめんなさいごめんなさい、私おいしくないです……! 食べないでぇ……!」
外の「死神たち」が。
ただのシフト交代で揉めている過保護な騎士たちだとは。
彼女は、夢にも思わずに。
────────────────────
【裏トーク:騎士団の秘密チャットログ】
SERVER:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 4)
@課金は酸素
警告。
ミミちゃんが怯えています。
今すぐ庭から撤収してください。
@氷結の獅子
断る。
この暴風雨だぞ?
もし突風で飛んできた木の枝が、ガラスを突き破ったらどうする。
俺が剣で切り落とす必要がある。
@新入り聖騎士
また適当な理屈を……!
ただ一番近くで見ていたいだけでしょ!?
退きなさいよ、この変態団長!
「夜番」のシフトは、ジャンケンで私が勝ったはずよ!
@公式カメラマン
俺は撮影班だ。
嵐の中、雷光に怯えるミミちゃんの儚げな表情……。
これを撮らずして何が公式か。
防水結界も張ったし、機材の準備は万端だ。
@氷結の獅子
うるさい。
俺は一歩も動かん。
今日は朝まで、ここで彼女の寝顔を(壁越しに)守護する。
@新入り聖騎士
……あ、そう。
力ずくで居座る気ね?
なら、こっちは資本主義の力を行使するわ。
[System Alert] —————————–
User: @新入り聖騎士 has donated 100,000,000 G.
Comment: “この土地の『夜間独占警備権』を買います。部外者は消えて。”
@公式カメラマン
1億……だと?
たかが雨の中で立っているだけの権利に?
[System Alert] —————————–
User: @氷結の獅子 has donated 150,000,000 G.
Comment: “却下。俺がオーナーだ。倍額払ってでも俺が立つ。”
@新入り聖騎士
ハァ!?
なら私は3億出すわよ!!
@氷結の獅子
俺は全財産(国家予算並み)でも出すぞ!
@課金は酸素
……いい加減にしなさい、この駄犬ども。
さっきから貴方達の端末の投げ銭アラートが鳴り止まなくて。
ミミちゃんが「お化けの声(通知音)がする」って余計に怖がっているでしょうが!
@氷結の獅子
……ッ!
それは本末転倒だ。
@課金は酸素
全員、即時撤収。
私の開発した「遠隔監視ゴーグル」で我慢しなさい。
これなら暖かい部屋で、ぬくぬくと――『高解像度の安否確認(推し活)』――ができますよ。
レンタル料は一時間につき1,000万Gですが、借りますか?
@新入り聖騎士
……チッ。
ミミちゃんが怖がるなら仕方ないわね。
借りるわよ。10時間パックで。
@公式カメラマン
了解。
撤収する。
……ただし、今の「雷光と3人の影」の構図、めちゃくちゃカッコよかったから記念写真は撮っておいた。
@氷結の獅子
後で送れ。
待ち受けにする。
コメント