第17話 競合他社はブラック企業!? ~死霊使い(ネクロマンサー)、その『24時間・不眠不休』は労働基準法違反ですよ~

魔王城・CFO執務室。
私は、アリスがハッキングして入手した『ある企業の内部データ』をスクリーンに投影し、深くため息をついた。

「……酷いですね。これは完全に『ブラック』です」

画面に映し出されているのは、魔界の新興人材派遣会社『株式会社ネクロ・スタッフ』の勤務実態ログだ。

[Audit Alert] 労働環境監査LABOR_AUDIT
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Target: (株)ネクロ・スタッフ
代表取締役: 死霊王ネクロウス

▼ 勤務実態データ
[労働時間] 24時間 / 日(休憩なし)
[残業代 ] 0マナ(支給実績なし)
[離職率 ] 0%(※死んでも蘇生させて働かせるため)

判定: 【労働基準法・全条項違反(Totally Illegal)】
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「ひ、酷すぎる……! 死んでも辞めさせないとは、悪魔の所業だ!(※我々も悪魔ですが)」

同席していた魔王ゼノンが、怒りで拳を震わせている。
彼は普段のふざけた様子とは違い、その双眸に真紅の怒りを宿していた。

「クリフ。余は悲しい。同じ魔族を、こんなボロ雑巾のように使い潰す経営者がいるとは……」

「ええ。同感です。……しかも、最近当社の採用試験に落ちた者たちが、言葉巧みにこの会社へ誘導されているようです」

私は眼鏡を押し上げた。
人材の流出は、我が社の成長戦略にとっても看過できないリスクだ。

「どうしますか、社長。……経済的に潰しますか? それとも法的に潰しますか?」

私が尋ねると、ゼノンはバサァッとマントを翻し、重厚な声で告げた。

「両方だ。……そして最後は、余が直接引導を渡してやる。**我が社の社員(予定者含む)に手を出したことを、魂の髄まで後悔させてやろう**」

「……御意。では、『強制監査(ガサ入れ)』の準備を始めましょう」

一方、その頃。
魔界の辺境にある、薄暗い地下採掘場。

「おらぁ! 手が止まってるぞ新入り! 今日のノルマが終わるまで水はやらん!」

骸骨の現場監督が、骨の鞭を振るう。
その先で、泥まみれになってツルハシを振るっているのは――元勇者アルヴィンだった。

「くそっ……話が違うぞ……! 『アットホームな職場』じゃなかったのかよ……!」

アルヴィンの目は窪み、頬はこけ、かつての栄光の面影はない。
彼は「幹部候補生」として採用されたはずだった。
しかし蓋を開けてみれば、そこはゾンビやスケルトンと共に24時間働かされる、地獄のタコ部屋だったのだ。

「おい、そこの新人(勇者)! 文句があるなら契約書をよく見ろ!」

監督が契約書の裏面を突きつける。
そこには、虫眼鏡でも読めないような極小の文字でこう書かれていた。

『※尚、甲(従業員)は死後も乙(会社)に魂を捧げ、永劫に労働力を提供するものとする』

「そ、そんな……死んでも働けってことかよ!?」

「そうだ。うちは『死霊(ネクロ)』スタッフだからな。死んでからが本番だ。……さあ、死ぬ気で(あるいは死んで)働け!」

ビシィッ!
鞭がアルヴィンの背中を打つ。

「いってぇ! ……くそ、聖剣さえあればこんな奴ら……!」

アルヴィンは泣きながらツルハシを振るった。
だが彼は気づいていない。

彼の懐に入れたままの『魔王軍の求人チラシ(破れたやつ)』が、かすかな魔力信号を発信していることに。

魔王城、サーバー室。

「……信号キャッチ。発信源特定したよ」

アリスがロリポップキャンディを舐めながら、キーボードを叩く。
モニター上の地図に、赤い光点が点滅した。

「場所は『嘆きの鉱山』。……ネクロ・スタッフの非公開・違法工場だね」

「素晴らしい。やはり『求人チラシ』にGPS(追跡魔法)を仕込んでおいて正解でした」

私はニヤリと笑った。

あの時、アルヴィンがチラシを拾ったのは計算通りだ。彼という「生きたプローブ(探針)」が、敵の懐深くに入り込んでくれたおかげで、決定的な証拠現場を押さえることができた。

「ガント、出動準備を。……今回は『労働基準監督署』としての強制執行です」

「おうよ。……社長も行くって張り切ってるぜ」

ガントが親指で背後を指す。
そこには、漆黒のフルプレートアーマーに身を包み、魔剣『デスペラード』を帯びた、完全武装の魔王ゼノンの姿があった。

「行くぞクリフ。……ブラック企業には『退場(Physical Death)』あるのみだ」

「フッ……頼もしい限りです」

魔王軍のトップ3(+ガント)による、史上最も恐ろしい『労基署の巡回』が始まろうとしていた。

(続く)

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